生成AI時代の言語論

2025年04月30日 15:25

「生成AI時代の言語論」大澤真幸著、ゲスト:松尾豊、今井むつみ、秋田喜美を読みました。著者の大澤真幸博士は社会学者で専攻は数理社会学。個人思想誌「THINKING「O」」主宰。「ナショナリズムの由来」で毎日出版文学賞を受賞。「自由という牢獄」で河合隼雄学芸賞を受賞。その他著書に「身体の比較社会学」「意味と他者性」「可能なる革命」などがある。松尾豊博士は東京大学大学院工学系研究科人工物研究センター/技術経営戦略学専攻教授。東京大学新世代感染症センターメンバー。日本ディープラーニング協会理事長、ソフトバンクグループ社外取締役、内閣府「AI戦略会議」座長、新しい民主主義実現会議有識者構成員を務める。今井むつみ博士は慶應義塾大学環境情報学部教授で専門は認知科学、認知心理学、発達心理学、言語心理学、教育心理学。秋田喜美博士は名古屋大学大学院人文学研究科人文学専攻英語文化准教授で専門は認知・心理言語学です。

この本は、AI研究、認知科学、心理学、言語学の領域を横断。生成AIによって見えてきた、人間の言語の謎に迫る内容になっています。
第一部
🔸対談「生成AIとは何か?」
AI研究者・松尾豊博士に、Chat GPTを中心とした生成AI研究の現状を聞く。「生成AIの発展によってブルシット・ジョブが増える?」「人間の自由意志は幻想?」AIによって人間や社会はどのように変化していくのか、AI研究の最先端を追う。
🔸鼎談「記号接地する」とはどういうことか?
「言語の本質」の著者・今井むつみ博士、秋田喜美博士を迎え、AI研究の重要問題である「記号接地問題」について議論。オノマトペと言語習得にはじまり、音楽の効用、アブダクション、信仰と「知」の関係性まで縦横無尽に語る。
第二部
🔸大澤真幸 AIについての論文4本を収録
の二部構成になっています。(発行所:株式会社左右社ホームページより)

AIにおいて未だ記号接地問題は解決されておらず、人間以外の動物では匹敵する能力を備えられてていないことから、裏を返して人間はなぜできるのだろうと考え、人間の獲得した言語というものの謎について解き明かしていく。特に大澤博士の論文「表像能力の非表象的基礎 記号接地はいかにして可能か」は面白かったです。ぜひ読んでみてください。ちなみにその論文内の『4、第三者の審級と記号接地』は本来の文脈とは違う視点になってしまうのですが、共同注意という現象から「第三者の審級」という視点が自分たちから独立して、あたかもあらかじめ存在していたかのように体験されるという話。今、ネット上で起こっている現象である誹謗中傷・・いわゆる「叩く」といった現象は、こうした理屈を当てはめるとなんとなく理解できるような気がします。人間の持っている能力、記号接地や言語の成り立ちの話が、ネット空間・・バーチャルの世界でも当てはまるとしたら?(ひょっとするとバーチャル世界だから増幅される?)非常に興味深いです、もう一度よく考えてみたいと思います。

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