白い骨片

2021年06月18日 08:54

「白い骨片 ナチ収容所囚人の隠し撮り」はナチ強制収容所の囚人たちによる、命懸けの隠し撮り写真を手がかりにして、その写真の一枚一枚を細部まで調査・記述を行うことで、ホロコーストの歴史を無修正で物語っている本です。著者のクリストフ・コニェはドキュメンタリー映像作家、脚本家で「私は画家だったから」(2013年)などドキュメンタリー映画で国際的な賞も受賞しています。

本書の序文には『クリストフ・コニュに興味を抱かせたのは、単に写真それ自体でも写真に映されたものでもなく、写真という痕跡を残したところのものである。彼は写真撮影行為の考古学者となる』と書かれていて、この本を通じてミクロストリア研究という言葉を知りました。ミクロストリアはイタリア語で境界などがはっきり定義された小さな単位を対象とし、集中的に歴史学的な調査・記述を行うことだそうです。収容所を一つ一つ実地調査して、実際に写真の撮られた場所に立って、どのように撮られたものかを頭の中で再現してゆくところは写真論のようでもあり、撮影した人物やそれに協力した人物、またその写真を公表した人物などの生い立ちや背景などを調査してゆくところは歴史学の様でもあります。

本の中でクリストフ・コニュは、これらの写真の視覚的痕跡は、我々にとってーーたとえ見ようとするためにすぎないとしても、厳しくて長い、我慢の努力をし、そこでいわば発掘作業を行い、考古学で言うようにそれを「発見する」よう強いられてーー知覚/認識するものになる。それは、想像界と現実、フィクションとドキュメントのカテゴリーを超越するという意味において、純粋な知覚だが、またそれゆえ、素材がまだ形をなさず、孵化形成中なので、現実的にして架空のままの、決定不能な二つをもとにした知覚である。と書いています。写真を考えると言う作業は、小説の「夜と霧」を読むような感覚とは違った脳の部分を働かせなければならないのかもしれません。写真から感じるとは何か?を考えさせられる本でした。

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