一下級将校の見た帝国陸軍

2021年08月14日 08:44

明日8月15日は終戦記念日です。毎年この時期になると戦争に関係する本を一冊読んで、戦争とは何か、どうすれば戦争をせずに済んだのか、これからどうすれば戦争を避けることができるのかを考えてみることにしています。今年の本は「一下級将校の見た帝国陸軍」山本七平著です。山本七平さんは以前「空気の研究」という本でこのブログに書きましたが、1944年大学卒業後すぐに招集され、第103師団砲兵本部本部付陸軍砲兵見習士官・野戦観測将校(のちに少尉)としてフィリピンのルソン島に派遣され戦闘に参加、その後ルソン島で終戦を迎えマニラの捕虜収容所に移送されるという経験をされています。この本ではその陸軍での軍隊経験をもとに、内部から冷静な目で見た大日本帝国陸軍という組織について書かれています。会社で言えば中間管理職のような下級将校の目を通じて、太平洋戦争末期の帝国陸軍を言うならば、仮想敵国ではなかったアメリカと戦うことになって、準備ができていませんとは言えず体裁だけは整えたものの、中身なスカスカのハリボテを最後まで最強の軍隊と言い張っていた組織と言えるのではないでしょうか。“大に事える主義”“員数主義”“私物命令”“気魄という名の演技”“といった組織を徹底的に蝕んでいた実態を、俯瞰した目でわかりやすく実例を挙げながら一つ一つ丁寧に解説してくれます。

山本さんはあとがきに自身の反省も踏まえてこう書いています。未知の未来は人を恐怖さす。特に未知への関門と言うべきその接合部、入試・徴兵検査・入営・戦場・収容所等々、その門に立った時、門から先の未来が全く予測できず、未踏せぬ暗黒の前に立ったように思える。そしてこのことは、たとえ強烈に意識できない場合も、全ての人々の心底に潜在する恐怖であることは否定できない。この恐怖から逃れるため、人びとは自らのうちに未来のシナリオを書き、「進歩」「必然」「流れ」等の様々な言葉で、これが確定ずみであると自分で信じ込もうとしたり、既存の秩序の一端にとりつけば、それがエスカレーターの如く、確定した未来に安穏に自分を運んでくれると信じ込もうとしたりする。ー(中略)ー自己の持つ未知の未来への不安を、社会に拡散して解消しようという一つの逃避は、確かに何かを演じつつ破滅する道であろう。人はいかにすればこの道から逃れ得てリアルでありうるか。その第一は、おそらく、いかにして自らを再把握するかということであろう。

1976年に出版され45年経っている今、現在でも通じるところがあるように思います。いろいろと考えさせられました・・・・・今年の夏おすすめの一冊です。

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