シリウスの反証

2022年02月25日 08:54

「シリウの反証」(この作品は「文芸カドカワ」「カドブンノベル」に連載された「無実の罪」を、加筆修正の上改題し書籍化されたものです)という本を読みました。作者の大門剛明さんは2009年に「雪冤」でデビューされ、司法制度にメスを入れる重厚な作品を数多く生み出しています。「シリウスの反証」も科学捜査が生み出した冤罪をテーマにしています。ざっと内容を紹介すると、冤罪被害者の救済活動に取り組む、弁護士や学者などのスペシャリストで構成された団体「チーム・ゼロ」のもとに、無実を訴える一通の手紙が届く。それは平成8年に岐阜県郡上郡で起きた一家四人殺害事件の犯人として、死刑判決を受けた死刑囚・宮原からのものだった。理想に燃える若手弁護士・藤嶋翔太は事件のついて調べ始め、信頼の置けない科学捜査や心理的なバイアスなど、さまざまな要素から真相を手繰り寄せるが・・・。冤罪救済チームが挑む、難攻不落の再審請求の壁、迫真のリーガルミステリといったところでしょうか。遺留品のDNA鑑定や監視カメラの画像解析。スマートホンやドライブレコーダーから得られる情報解析など、科学技術がもたらした捜査手法の進歩は大きなものであり、もちろんそれによって数多くの事件が解決につながっていることと思います。がしかし、「シリウスの反証」でも扱っている通り、科学捜査も絶対ではなく落とし穴は存在するのだと考えさせられます。そもそも科学的な検証によって得られる結果は、過信しやすいというバイアスがかかっているのかもしれません。さらに再審請求の問題については、問題の複雑さや根の深さみたいなものを感じました。あくまでもフィクション上の話ですが(とはいうものの著者の大門剛明さんによる丁寧な取材や調査に基づいていると思います)、裁判で取り扱われなかった証拠の開示ですとか、得られた証拠の保管について現実問題として改善できることはある様な気がします(私自身は法律のことはよくわからないので、現在どの様な扱いになっているかは不明ですが)。大門さんの作品は映像化されているものも多い様ですので、今後映画化されるかもしれません、リーガルサスペンスの好きな方にはぜひ読んでもらいたい作品です。

 冤罪をゼロにする努力は当然だと思いますが、同時に冤罪は起こりうるものだと考えるならば、今ある再審制度は時代に合ったものなのでしょうか?考えていかなければならない問題だと感じました。

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