未完の天才 南方熊楠

2023年08月10日 15:45

「未完の天才 南方熊楠」志村真幸博士著を読みました。著者の志村真幸博士は京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。南方熊楠顕彰会理事、龍谷大学国際社会文化研究所研究員、慶應大学非常勤講師を務めています。南方熊楠が英国の学術雑誌に投稿した英文論文を翻訳・解説し、その内容や背景を詳しく紹介した「南方熊楠のロンドン」と言う本を出版しており、この本は、2020年にサントリー学芸賞を受賞しています。

知っている方も多いと思いますが、ざっと南方熊楠という人について紹介させて頂きますと、日本の博物学者、生物学者、民俗学者として有名な人物で、粘菌やキノコなどの生物の研究や、十二支や幽霊などの民俗学的なテーマについても著作を残し、イギリスの科学雑誌「nature」に51本もの論文を発表しています。在野の学者として生涯を過ごしましたが、昭和天皇に粘菌について進講したり、柳田國男と親交を持ったりするなど、多くの人々に影響を与えた人です。この本では最新の研究成果や新発見資料を取り上げながら、その仕事のほとんどが未完に終わった南方熊楠の生涯を辿り、その「天才性」と「未完性」の謎に迫ります。

確かに南方熊楠という人は確かに変わっている・・・不思議な人のように感じます。東京大学の準備教育を担う予備門を中退して以来、ひたすら独学に励み、英語は堪能で、漢文、フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、ラテン語などはある程度は読めたそうです。アメリカ、イギリスに渡っての藻類、シダ類、菌類などのフィールドワーク、「nature」「N & Q」などに投稿した古代東洋を主題とする科学史の論文、和歌山に戻っての民俗学研究。膨大なフィールドワークや膨大な量の資料を調べ、膨大な量の本を読み、こう言ってはなんですがあまり脈絡のない分野の巨大なインプットを構築する・・・データベースとも言えそうです。さらに莫大な時間を抜書(書物の書き写し)に費やしたにもかかわらずアウトプット(論考など)に使われていないのだそうです。

あくまでも私の勝手な想像ですが・・・南方熊楠はただひたすら“知りたかった“だけなのではないでしょうか?大学教授になったり、〜の大家と言われることに興味がなく、もちろん自分の研究が人の役に立てば嬉しかったでしょうが、知ることにただひたすら興味があって時間がいくらあっても足りず、アウトプットしている暇がなかったんではないでしょうか、もし弟子みたいな方がそばにいて、その研究をまとめて発表することができれば良かったのかもしれません。結果としてまとめられず未完のままというのは惜しい気がしますが、アウトプットありきで短期間で結果を求められる研究ばかりという風潮も考えものだと思います。時代を経て、これから研究が進んで南方熊楠の研究が再評価される日が来る可能性も大いにあります。果たして南方熊楠の生涯は幸せだったのか?・・・亡くなる間際まで研究を続けていたことは確かなようです。

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